恋のはじまりは曖昧で

まさか胸を見られてるとは思わなかった。
一応、見られないように温泉につかるギリギリまでタオルで隠すという努力はしていたんだけど。

井口さんはそんなことを言うだけあって、ナイスバディの持ち主。
胸が小さいのはちょっと気にしてることだったんだけどなぁ。

「大丈夫よ、紗彩。形は綺麗なんだから」

三浦さんは笑顔でフォローしてくれたけど、私は苦笑いするしか出来なかった。

ふと、さっきから三浦さんたちは会話しながらメイクをしていることに気づく。

あっ!
そういえば、私はメイクポーチを持ってきていない。
バタバタしてたから、その存在をすっかり忘れていたけど、時すでに遅し。

「そろそろ時間じゃない?」

「ですね。一度、荷物を置いて宴会場に行きましょう」

どうやら、みなさんメイクを終わらせたみたいだ。
これはマズイと思っても、下っ端なので先輩たちを待たすことは出来ない。
スッピンで三浦さんたちの後を追った。

エレベーターに乗り、部屋に入るとバッグからポーチを取り出し、急いで化粧水をつけた。
人様にスッピンを晒すことに抵抗はあったけど、如何せん、時間がない。
ざっとまゆ毛を描いただけでタイムアウト。

「紗彩ちゃん、行こう」

「はい」

弥生さんに呼ばれ、慌てて部屋を出た。
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