恋のはじまりは曖昧で

「あの、田中主任!待ってください。ちょっとお話ししたいことがあるんですけど」

「何?」

「ここではちょっと……」

森川さんは言いにくそうにして、私に視線を向けてきた。
その眼光から、“邪魔よ、気を利かせて早くどこかに行きなさいよ”オーラを出している。
あまりの鋭い視線に怯んでしまった。

「私、先に戻りますね」

これ以上、ここにいても森川さんに睨まれるだけだ。
私がそう伝えると、田中主任は小さくため息をついた。

「分かった。結構酔っ払いとかいるから絡まれないように気を付けて」

「はい」

私は返事をし、その場を後にした。

お土産を見ようとしていたことをすっかり忘れ宴会場に戻ると、自由に入り乱れていて唖然とし足を止めた。
さっきまではこんなに酷くなかったんだけど。
入口のところで宴会場の様子を見ていたら、薫が手を振りながらやってきた。

「紗彩、こんなところで何してるの?」

「いや、この雰囲気に圧倒されちゃって入るに入れない、みたいな」

「あー、ビンゴゲームが終わった瞬間にみんな騒ぎ出してこんな状態になっちゃった。私もビックリしてたんだよね」

薫も苦笑した。
私と同様、薫もいい大人がお酒を飲んで騒ぐという姿を見るのは初めてだから、驚きが大きい。
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