seasons.(シーズンズ)【完】



ぼんやりと昔の記憶を思い返していた私は、黒板上の丸時計を一瞥して、もうすぐ休み時間が終わること把握する。
次は理科の実験だから移動しないと。
机の中から教科書とノート、それから筆記用具入れを取り出して、静かに席を立つなり騒々しい教室を出た。
ほとんどの人が新しいクラスの一員として環境に溶け込んできた頃、私は変わらず単独行動をしていた……と言いたいところだけど、実は近頃そう断言できる状況でもなくなってきている。


「冬香!教室移動一緒に行くわよ」
「一人で行くからいい」
「んな寂しいこと言わないのー」
「私のことは放っておいて」
「無理ね」


理由は芳賀さん。彼女は暇を見つけては、私に話し掛けて仲良くなるチャンスをうかがっているようだった。
小耳に挟んだ話によれば芳賀さんが私と仲良くしたいのには汚い下心があり、どうやら先日のホームルームで推薦を受けたのち反対意見の「は」の字も見受けられない円滑な形で、学級委員長に任命された進藤くんを支援するためらしい。
クラス内で孤立している生徒がいると、非難されるのは委員長だからだそうだ。
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