出来が悪いキノコ【短】
キノコ料理


 庭の紅葉は赤く染まり、家庭菜園の作物も収穫時。


 この景色が訪れると同時に、去年他界した私の母の一周忌を迎える。


 優しくて、礼儀正しくて、私の自慢だった祖母。年を取ったら母みたいになりたいと思っていた。


 まあ、私は今五十代で充分年をとっているのだが。


 そんなあこがれの母に私は何も親孝行をしてやれなかったんだと思うと、今になって涙が出てくる。


 認知症で私の名前もわからなくなってしまった母に、もっと早くから何かしてあげればよかった。


 いや、でも最後の最後に、私は親孝行ができたのではないか。母に頼まれたことを、私は成し遂げたんだ。


 本当にあれが親孝行となったのかはよくわからないが、私にやれることといえばあれしかなかっただろう。


 そう考えると、胸を張っていいのかもしれない。


 私は小さな家庭菜園を見つめた。その横の松には、この家に来たときからずっと生えているキノコが、今年も相変わらず生えていた。


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