出来が悪いキノコ【短】
「おう、とれたか」
玄関を開けた途端に顔を出した私の夫。長い付き合いだ。もう結婚して二十数年になるところだろうか。
夫も母と同じようにキノコが大好物で、この時期になるとよく二人でキノコ料理を食べる。
今年もそのつもりで庭からキノコを取ってきたのだが、出来が悪いキノコが取れるとは思わなかった。
「ええ、去年と同じくらいの量よ」
キノコ料理を楽しみにしている夫に、まさか今年は美味しくないかもなんて言えず、適当に返事をして夫の横をすり抜け、台所へ向かう。
「楽しみにしているよ」
やはり美味しくないかもとは言えない。
私は台所にかけてあるエプロンを首にかけ、紐を後ろできゅっと締めた。これは母が料理が下手だった私のために作ってくれたものだ。
それを思い出すとまた涙が出てくる。
憂鬱な気持ちで包丁を戸棚から取り出した。