君と夢見るエクスプレス

笠子主任に家庭があることを知っている人が、私と二人きりで居るところを見たなら何て思う?



単純に、上司と部下が食事していると済まされるのか。
それとも……



考えるほどに、返すべき言葉がわからなくなっていく。胸の鼓動が速さを増して、ただドキドキするばかり。



私はまだ何にも、やましいことなんて考えてすらいないというのに。いや、ドキドキしてしまう時点で考えているのかもしれない。



「ごめん、無理だったらいいんだ。せっかく早く帰れるから……と思っただけだから、気にしないで」



主任の優しい目、穏やかな声に偽りは感じられない。触れられてもいないのに、包みこまれるような優しさ。



本気で包まれたいと願ってしまったら、高鳴っていた胸の鼓動が少しずつ治まっていく。いけないとわかっているのに。



姫野さんの思わせぶりな態度は、どうってことなかったのに。



「すみません、無理じゃないです」



私は、何ということを……



口をついて出てきたのは、自分でも予想もしなかった言葉。言ってしまって早々に、後悔の波が押し寄せる。



それだけは、絶対にダメだとわかっていたのに。



笠子主任の口元が、ゆるりと弧を描く。


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