君と夢見るエクスプレス

ここに来るまでの路地からは想像しなかった雰囲気ある店内に、驚かずにはいられない。しかも、お好み焼き屋らしくない外観。



こんな所に、こんな店があったなんて。こんな店を、彼が知っていたなんて。
確か、彼は海外に住んでいて昨年末に帰ってきたと言っていたはず。



「橘さんの地元は、この辺りなんですか?」



つい尋ねてしまった。



ちょうど運ばれてきたジョッキの口からは、今にも溢れそうなほどの生ビールの泡。黄金色に染まるジョッキを、彼が私へと手渡してくれる。



今日は飲むつもりはなかったけれど、少しぐらいと頼んでしまったのは店の雰囲気のせいかもしれない。



『お疲れ様』と声を揃えて乾杯して、まずはビールをひと口。冷えたビールが勢いよく喉を通り過ぎていく感覚が、堪らなく心地いい。



「うん、実家はもう少し北、山手の方。この店は駅の先輩が教えてくれたんだ」



心地よい感触を惜しみながら、ようやく彼が答えた。



滝野原駅から北側、山手と呼ばれる地域には大規模な住宅地が広がっている。その一部には高級住宅地と呼ばれる地区もあるから、彼の実家の住所が非常に気になるところ。






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