君と夢見るエクスプレス
お仕置きだなんて言ってた彼の、嫌な人のイメージはすっかり払拭された。たった一夜でずいぶん距離も縮まったけど、肝心な言葉はない。
抱いてくれている時に何度も『愛してる』と言ってくれたけど、それ以上の言葉はない。
唯一、
『陽香里って呼んでもいい?』
と彼は言っただけ。
付き合おうとか、彼女になってとか、そんな言葉は一切言ってくれなかった。
まさか私から言えないし……
本当は待ってたんだけど。
「橘さん、おはようございます。こんなに早く、どうしたんですか?」
動揺を悟られないように、さらりと返した。
どうして、ここにいるの?
と言いたい気持ちも、しっかりと込めて。
今日、彼が本社勤務だということはわかってる。先週会った時と同じ時間の電車でも間に合うのに、どうして早い電車に乗ろうとしたんだろう。
私が彼に会わないように、時間を早めた甲斐がないじゃない。