君と夢見るエクスプレス

私が高校生の頃はもっと大人しかった。校則が厳しかったし、何よりも、ここよりもっと田舎だったし。



なんて思いながら、持っている本で顔を覆って大あくび。顔を上げたら、前に立ってる人の向こう側に座ってる人と目が合った。



私と同じように、本を手にした若い女性。潤んだ目を細めて会釈するから、私も返した。名前も年も知らない人だけど、毎朝同じ車内で顔を合わせる人だ。



私の前に立って大きな本に顔を埋めているスーツ姿の男性も、隣に立っているジーンズの若い女性も。向かいのシートにひしめき合う人たちの顔ぶれもいつもと変わらない。



膝の上のバッグを抱え込んで眠っている人。器用に新聞を畳みながら読んでいる人。素早い指使いでスマホを操作する人。



みんな毎朝同じ通勤電車に乗り合わせる見知った顔ぶれ。



その中に、見たことない顔を見つけた。



さっきの女子高生たちのすぐ傍、シートの一番端に座って腕を組んで動かない若い男性。眠っているのかもしれないけど、微動だにしない。



いつもあそこに座っているのは、初老の男性。そう、見たことない彼の隣に座っている人。



だけど、よくよく見ると男前かもしれない。





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