君と夢見るエクスプレス

職場に到着するまで、橘さんは現れなかった。



私が望んでいたことのはずなのに、どうしても気持ちがすっきりしない。何かわからない、もやもやした気持ちが胸の中で燻ってる。



事務所に入った私を迎えてくれたのは、芹沢主任の大きな声。



「お、松浦さん、今日は早いなあ!」



驚くような大きな声に、私の方が驚いてしまう。



事務所を見渡すと他には、笠子主任が席に着いてる。席へと向かう私に、にこやかな挨拶をしてくれた。



いつもより一時間以上早い出社。
事務所の景色が違っていて新鮮だ。



普段なら私より先に出社している人が、席に着いた私を見て驚く。



「早いじゃない、どうしたの?」



と問われたら、説明するのは難しい。
まさか、橘さんを避けて早く出社しました。などと言えるわけないのだから。



続いてやってきた姫野さんまで、あからさまに驚いて目を丸くする。



「おはよう、早いじゃない。昨日はありがとう」
「おはようございます、こちらこそ、ありがとうございました」



昨日のお礼を言わなきゃいけないのは私。ケーキとコーヒーは、姫野さんがご馳走してくれたんだから。



それ以上、余計な話には触れるまい。



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