センセイの好きなもの
息を切らせて、ネクタイは帰るときに見た姿と同じく緩いまま。


「あれぇ、巧先生ら!」


「巧、遅いわよ。見ての通りベロベロ」


巧先生は私を抱えて立たせてくれる。
地に足がついている気がしない。今ならふわふわ飛べそうな気分。


「お前、何でツムと飲んでるんだよ…。仲良くなってるしよ。ツム、しっかりしろ」


「しっかりしてますよぉー!」


喋ってるし立ってるし意識もある。しっかりしてるじゃん。失礼な。先生のバカ。


「ツムちゃんがどんな子なのか気になってね。待ち伏せして誘ったのよ。巧が惚れるのも分かった気がするわ。私と正反対だけど、私にないものを持ってる。私はこんなに相手に尽くすことは出来ないからね」



歩こうと一歩踏み出した瞬間、視界がぐにゃりと歪む。前のめりに倒れそうになったとき、巧先生が私を呼ぶ声が聞こえた。

私、しっかりなんてしてなかった…。巧先生、バカなんて思って…ごめんなさい。

そこで私の意識は遮断された。
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