センセイの好きなもの
小さい頃からずっと、あだ名は「つむ」。
施設でも学校でもそうだった。


最後に名前を呼ばれたのはいつだろう。

母に会ったときか―――。



「この前言ったよな、俺がツムを守るって。弁護士としてはもちろん、男としてもだ。どういう意味か分かるだろ」


巧先生は照れくさそうにして、その先を言わずに食事に戻ってしまう。


どういう意味かなんて聞かないと分からない。

ううん、聞かなくても想像はつくけれど、それはあくまでも想像で―――。


私は巧先生の手からフォークを取り上げる。



「何すんだ…」


「ちゃんと言ってください。言ってくれなきゃ分かりません」



こんな大事なことはちゃんと言ってほしい。

紗絵さんのときと同じような失敗をしないで―――。


巧先生は姿勢を正してコホンと咳払いすると、私をしっかり見つめて言った。


「紡実が好きだよ。…ツムは?」


「好きですよ?」


「誰を?」


分かってるくせに。巧先生は意地悪な笑みを浮かべている。
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