センセイの好きなもの
「紡実、久しぶりね」


母はにこやかに私に近づいてくる。

私はこのとき、ビルの清掃とコンビニと居酒屋のバイトを掛け持ちしていて、ちょうど居酒屋のバイトを終えて帰るときだった。


「この前、偶然ここで紡実を見かけて…」


「私はアンタなんかに会いたくない。二度と来ないで！」


「そんなこと言わないで、少し話でも…」


私は母を睨みつけて足早に立ち去った。

母はそれからしばらく現れず、１ヶ月が過ぎた頃に今度は私のアパートの前で待ち伏せていた。
日付けはとっくに変わった真夜中も過ぎた頃、その日の仕事を終えて、わずかな睡眠を求めて家に帰った。


「嘘でしょ…」


アパートの階段に座り込んでいる母がいた。
大きな花柄がプリントされたブルーのロングドレスに白いカーディガン。
赤い口紅。
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