オトナになるまで待たないで
自転車が倒れて、道に転がる。

後ろから来た自転車が、

「ひえっ」

と言いながら、それを避けて行く。


私は抱きかかえられて、ゆっくり体を起こされる。

麗しい光景だ。

少女漫画みたいだ。



「なぁ!もう乗ってぇ!お願いやから。学校まで歩くて?冗談は顔だけにしーや!」


ううーん…

もう何もかも面倒くさい。



王子が自転車を起こして、私をアゴでしゃくる。

カバンを預け、素直に後ろへ座った。



すんなりと自転車が走り出す。


やっぱり力は、男だな。

「ちゃんと掴まって!」

と言われ、腰に回した左腕に力を込める。



「髪、切らせてーな」

「うーん…」

「戦時中の子供か思ったわ」


ふっ…

たまらず、吹き出した。



風が気持ちいい。

しばらく、お金のことは忘れよう。

普通の高校生やろう。



そう決めたら、ひさびさに晴れやかな気持ちになった。


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