短編集‥*.°



「…マキ?マキなのか!?」



さあっと酔いが覚めていき、
上気した頬に冷たい風が当たる。



ビルに挟まれているからか、
ここはかなりの風が吹いて、寒い。



「そーよー。マキ」



マキは軽く返事をすると、
長い髪を後ろに流して
僕に言った。



「久しぶりー。酒でも飲まない?
 あ、タケル持ちね」



僕はすぐに、
近くのコンビニへと走った。






コンビニの袋を地面に置くと、
風になびいて飛んでいきそうだった。



ビールの缶をぷしゅりと開ける。



それはマキも同じだ。



「…あれからどうなった?
 なんで水商売なんだよ」



「ん?駆け落ちの事?
 アハハッ、あれねー」



…失敗した駆け落ちで、
僕らの交わるはずの未来は
真っ二つになった。



僕は普通の平社員で、
毎日を平凡に過ごして居る。



…マキは今どうなんだろう?



あのあと何があった?



「アタシね、あれからしばらくして、
 人生 捨てたのよ」



マキはそう言って、
「アハハッ」と屈託無く笑い狂った。



「…えっ?人生を、捨てた?」



僕はジッとマキの瞳を見据えた。



なんでか。



…人生を捨てた、そう言う割にはマキは
とても幸せそうに見えたから――…。



「どういう事だ?」



「んー、あの後ねー」



暗い暗い、ビルの間の細い細い道。



すぐそこの歌舞伎町へと出口を見ると、
様々な色の光が差し込んでくる。



あえて目を逸らした。



マキが話し出すのを、
ビールをすすりながら聞いた。



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