短編集‥*.°
「あの日…駆け落ちが見つかった後ね、
アタシ、無理やり両親に
お見合いをさせられたのよ」
「…えっ?」
…僕らは――僕とマキは、
元々恋人同士だった。
…互いに愛し合っていて、
僕も、なによりもマキを愛していた。
…でも、愛し合っているだけじゃ、
僕らの場合は結婚ができなかった。
僕が…貧乏人の息子だから。
「ほら、アタシって長崎グループの
娘じゃない?政略結婚に
使おうとしたのよ、両親は」
「…そうなんだ」
腰を下ろした地面は冷えて、冷たい。
十二月だから冷えているのだろう。
ビールを一口すすったが、
マキの話を真剣に聞きすぎているのか、
全然身体は熱くならなかった。
「寒いねー…。今、何月何日?」
「…十二月四日」
「へえー…。あの日に近いね」
〝あの日〟
…僕らが駆け落ちしようと約束し、
マキが屋敷を抜け出した日――…。
「タケルは覚えてる?あの日の事。
アタシは鮮明に覚えてるよ」
「僕だって、覚えてる」
二度と、忘れない。
「それで、見合いの後、
どうなったんだ?
どうして、人生、捨てたって…」
「…あの後ね」
ちらりと横を見れば、
マキの頬が赤く染まっているのが
暗がりでも見えた。