短編集‥*.°



「アタシ、無理やり
 結婚させられそうになった訳。
 でも、やっぱり嫌な相手と
 結ばれるのは嫌で。

 アタシはついに、屋敷を抜け出して、
 家出をした」



息を飲んだ。



マキの話を、聞いて。



「平凡な服装に変装して、
 滅多に使わない化粧をして、
 髪も切って。

 血眼になって探したらしいけど、
 アタシは逃げおおせた。
 …タケルを探しに行ったけど、
 居なかった」



「…その時、僕は」



僕は…。



冷たい風がぴゅっと音を立てて
目の前を通り過ぎて行く。



「…アメリカに渡ってた」



「…そっかあ、
 だから見つからなかったのね」



…夢を叶えるために、自分で金を稼いで
しばらくアメリカで住んでいた。



その間もマキは僕を
探していてくれたのなら、
なんて、なんて…僕は酷いんだろう。



「結局見つからなかったけど、
 あの家に戻るのは嫌で…。
 だからアタシは、人生を捨てたの。

 大変だったけど、結構 楽しくてね」



「人生を捨てたって…」



そういう意味なのか?
言いそうになって、口を塞いだ。



「…で、水商売中?」



元恋人なのに、
こんな事を淡々と聞けるなんて、
僕自身どうなんだ、とも思うけど。



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