カメカミ幸福論


 私のお代わりのビールが運ばれてくるのを待って、さて、と彼がジョッキを持ち上げにっこりと微笑む。

「まずは乾杯だな。待ち望んだシチュエーションに」

「・・・」

 返事のしようがないぜ。若干顔が赤くなったのを感じながら、私は控え目にヤツのジョッキに自分のを当てる。ああ、恥かしい・・・。どうしたらいいの?少なすぎる自分の恋愛経験は、こういう時全く役に立ってくれないものなのだ。

 さっきから小暮の視線が気になる。彼は、前に座ってからやたらと私の顔を見ているようで、こっちはどんどん視線が下がってしまうのだ。

 何なのよ~!!

「カメ」

「何」

 やっと言葉が来た、と思ったら、ヤツはさらりと爆弾を落とした。

「今晩はえらく綺麗だな。化粧直し、してきたんだ?」

 ぶぶーっ!

 ビールでなく、鼻水が噴出すかと思った。恥かしさの余り。私はパッと顔面を手で覆って、心の中で美紀ちゃんをとっつかまえてハリセンでどつきまくった。

 もう、もうもうもうもう~!!あんたのせいよ~!!

「たっ・・・たまにはちょっとそんな事もするのよ。悪い!?」

 頭に血がのぼり、食って掛かる。だけどそれにも平然と微笑んで、小暮は更に追い討ちをかけた。

「うんにゃ。普段そんなことしないカメが、してきた。俺は特別扱いされてるようで嬉しいねー」

 にやにや。そんな効果音が聞こえそうな笑顔だった。


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