カメカミ幸福論
あううううう~・・・。私は額に手をやり覚悟を決める。元々、ここへきた時点で間違いだったのだ。そうに違いないって。
前から小暮は、その回転の早い頭でタイミングよく言葉を出し、場を支配していた。私一人相手にするなどきっと朝飯前なんだろう。
・・・ああ、今晩は弄られるんだろうなぁ、て。
だけど、その後の小暮は完璧な紳士だった。
今までの営業経験をフルにいかしてか、飲み屋でのおもしろトークを披露してくれたのだ。私はお代わりのビールにつまみをどんどん食べながら、笑いながらヤツの話を聞く。
日がな一日中同じ建物の中にいて、同じパソコンの画面をみている私のとは全然違う一日が、彼にはあった。その話や過去の酷い接待、面白かった面談なんかの話がどんどん小暮から溢れ出てきて、私は退屈なんて言葉は知らなかった人みたいに笑い転げた。
ダンがいなくなって、こんなに笑ったのは久しぶりだった。
そして、誰かといて楽しいと思ったことも。
自分でも気がつかないままビールのグラスは重ねられていき、美紀ちゃんと飲んでいた時とは比べ物にならないほどの量を消化した午後11時、私たちはやっと立ち上がったのだ。
「だーいじょうぶか~?カメ~」
そういう小暮もフラフラだった。
私はケタケタと笑ってヤツの肩を叩く。
「あんたもフラフラでしょ~!お互い様じゃないのよ~」
前回と同じ、酔っ払っていてもスマートに会計を済ませる小暮。私はフラフラと外へ出て、夏の夜の、ひんやりとして湿気を多分に含んだ空気を吸い込んでいた。