カメカミ幸福論


 ・・・小暮、どうしてこんなホテルの存在知ってるんだろう・・・。つか、まあ、他の女の子と来たことがあるんだろうねえ。ああ、そうに決まってるじゃん!とか、昨日は確か木曜日だったから、何てこと!今日も会社行かなきゃなんじゃん!とか、そういえば昨日の飲み代、自分の分小暮に払ったっけ?とか。

 まあ色々な考えが飛来しては、一瞬で通り過ぎて行った。

 ちらりと小暮を振り返る。

 朝で少しのびた髭が、彼の顎に影を作っている。短い黒髪。伏せた瞼。規則正しい呼吸が、部屋の中を漂っている。白くてふかふかの夏用布団に包まれて、いい年齢の男が、いい色気を出しながらそこにいた。

「・・・」

 何よ、あんた・・・やっぱり格好いいじゃないの。私は視線をそらせなくなりながら、じっくりと彼を眺めていた。

 当たり前だけど裸で眠っている。その初めて見るかなりプライベートな姿に、薄暗い部屋の中で、一人で赤面してしまった。

 ・・・寝た、のよね、小暮と。私が。昨日の夜。

 何度目かの確認をする。だけど今やちゃんと目覚めてしまった私には、昨夜の久しぶりすぎる艶っぽい記憶がしっかり存在して、これでもかってほどに何度も浮かび上がってきていたのだった。

 短い時間とは言えなかった。

 あれほどお酒を飲んでいたにも係わらず、二人ともかなり素面に近い感じでいたと思う。つまり、それほど緊張して、それから一生懸命だったのだ。


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