カメカミ幸福論


 普段、日中のプライベートな小暮がお喋りかどうかは知らないけれど、少なくとも昨夜の彼は静かだった。ただ、揺らされる私が時折目を開けるといつでも彼と視線が会った。いつもは細められて笑顔を作っているあの瞳は、少し切ない色を浮かべて私をじっと見ていた。たまに、力抜いて、とか、痛くないか、とか聞いたりしただけで、にやりとした笑顔と共によく投げられる意地悪な言葉なんかもなかったのだ。

 何だか熱くて、わけが判らない感じで、それから・・・明るくて柔らかいイメージのひっついてくる行為をしてしまった。

 ・・・小暮と。

 腰から下がいやにだるい。・・・エッチって、こんなんだったっけ?わしゃわしゃと髪の毛をかき回して、それからヨロヨロとベッドから降りた。

 とりあえず、シャワーを浴びよう。昨日は汗だくのまま寝てしまったし(ごほんごほん!)、それに化粧もそのままだったし。

 彼を起こさないようにとベッドを離れ、私はやはりシンプルだけど細部まで行き届いた状態のバスルームへと入っていく。

 だるかったけど、何か、機嫌が良かった。口元が勝手に微笑んでいるのが自分で判って、鏡を見られなかったくらいだ。

 朝から上機嫌、そんなことは、私の人生において実に久しぶりだった。


「起きて、もう7時なるよ」

 シャワーから出たあと、簡単に身支度をしてから私は小暮をゆすっておこす。照れた。だって、男性とホテルで朝を迎えるなんてこと、私の人生では初めての経験だったのだ。

「・・・はよ」

 ぼーっとしたままでヤツがむっくりと起き上がる。出世頭のちゃきちゃき営業マンは、どうやら朝が弱いらしい。


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