カメカミ幸福論
ダンは平然とした顔で、ふふんと鼻だけを鳴らしてみせる。
「どうして人間風情に挨拶なんぞしなきゃならんのだ!俺は好きな時にくるし、好きな時に帰るんだよ~」
いいざまにムカついたけど、今はそれどころじゃない。私は片眉をひゅっとあげてみせた。
「帰ってたの、あんた?じゃあ、何でまた来たのよ、せ~っかく忘れたところだったのに!」
迷惑千万でしょうが!ああ、噛み付きたいわ。ってか、そうだった、私その為に爪を伸ばしてたんだった。短いのが好きなのにどうして長くしてるのって自分で思って、夏の終わりに切ってしまったのだ。
・・・ああ、悔しい。一度でいいからこいつを引っ掻きたかった。どうせ人間からは触れないんだけど!
私は自転車を降りてちゃんと停め、両手を腰にあててやつをにらみつける。ダンが人払いをしているなら大声で怒鳴ったって問題ないでしょ?そう思ったからだった。
ムカつくのよ、こいつはとにかく!
ダンはやたらと整った顔に呆れた表情を浮かべてダラダラ~っと言った。
「おー、久しぶりにその格好見たな~。彼氏が出来ても残念なところはちっとも変わらないんだな~」
「やかましいわ!」
叫んでから、私はハッとした。それからマジマジと光り輝くダンを見詰める。・・・ああ、サングラス欲しいわ、全く。残業で疲れた目には辛いほどの輝きだ。
「・・・あんた、消えていた時も私を観察してたの?」