カメカミ幸福論
私はくしゃっと顔を歪めた。それを見て、ダンがユラユラと降りてくる。
「どうしたムツミ?」
黙っといて。私は指を一本立ててダンを威嚇すると、呼吸をしてから電話に意識を戻す。
「・・・急すぎない?悪いけど、私用事が―――――――」
『あんた達は』
嘘をついて断ろうとした私の言葉を遮って、母親が断固とした決意を感じさせる声で言った。
『必ず来ること。独身で、日曜日に会社がないことは親戚中みんな知ってるの。お兄ちゃんもあんたも断る権利なんてないんだからね。必ず、来なさい。もし来ないなら、金輪際あなたたちの面倒は何一つ見ないわよ!』
「・・・今のところ、面倒を見てもらってないんだけど?」
横暴だ、と思ってささやかな反抗を試みる。私は実家に仕送りなどしていない使えない子供である。だけど、親からの救援物資や経済的援助だってないのだからそれだってお互い様でしょ。
すると母親は冷え冷えとした声で返した。
『急でなかったらあんた達が逃げるってことは判ってるのよ。今日実家の都合に合わせられないという断りの理由は、婚約者とのデートがあるから、以外は認めないわ。だけどその婚約者は来週の日曜日に我が家で紹介してもらう前提になるんだけどね』
「ちょっと――――――」
ガチャン!
母親は受話器を叩きつけたらしい。その音が余りに大きくて、私は痛む耳を片手で撫でさすった。・・・母さん、酷くない?
携帯を持ったままで恐らく来るだろう頭痛に備えて唸っていると、ダンがぐい~っと顔を突き出してきた。