カメカミ幸福論
私は通勤鞄を落としたのにも気がつかずに、ただそれを呆然と見詰める。
だって、ここ、外よ?
あれ?サーカスかなんかの練習?
動き出した頭で忙しくそう考えて、その人の後や頭の辺りにワイヤーの影を探す。
だけど、何もないのだ。
公園はほどほどに木が茂り、駅前の喧騒はここには聞こえない。呆然とする私と、その全身白い人だけ。巨大な装置やワイヤーロープなどもありそうもなかった。
男、だ。
段々暗くなる景色に目が慣れて、空から地上へと近づく男に焦点を合わせる。
男・・・髪がやたら長いけど。しかもプラチナブロンドっぽいけど。派手。でも、あの体は女じゃない。ガタイがいいし、大きい。それに・・・・わお、結構な美男子ではないの。
じゃあやっぱり何かの撮影?
私はハッとして周りを見渡した。誰もいないように見えるけど、これは何かのテレビ番組かなんかで、ドッキリとか?この人は俳優さんか、タレントさん?なら頷ける、そう思うくらい派手で目立つ男だった。
驚きから覚めた上に急に現実的になった私は、とりあえずその場から逃げることにした。
だってもしテレビ番組か何かなら、いきなりお茶の間の笑いものにされるなんてごめんだ。もしそうじゃなくても、普通の人間は空を飛ばないからあの人は変な人間に違いない!
ああ、どうして今日はチャリがないのよ!そう嘆きつつ、3センチのヒールシューズでダッシュする。走るなんて、久しぶりだ。だけど今こそこの2本の足を使うときよね――――――――――