カメカミ幸福論
夕暮れだった。
今日も勿論私は定時上がり。新卒の頃から住んでいるボロアパートに向かって、たらたらと歩いていた。いつもは自転車で通勤するが、今朝は雨だったので久しぶりに電車通勤だったのだ。鞄は重いし、歩くのも面倒くさい。
あーあ、お腹すいたな~・・・そんなことを思っていたはずだ。
だけど、夏前の夕暮れ時、一日の終わりの太陽が鮮やかに空を染めているその時。いつもの近道で通る公園の中、私は世にも不思議なものを見る羽目になる。
だから、お腹が空いていたのも忘れてしまった。
鞄の重たさも吹き飛んだし、面倒臭いって半分しか開いてなかった両目も思わず見開いていた。
ぽかんと口をあけて、バカ丸出しの顔で私は空を見ていたのだ。
だって。
だって。
・・・空から人が、降りてきたんだぜ。
空の端にはまだオレンジ色。紫や赤が混じって紺色になり、天上世界には綺麗な黒が生まれつつある、その空から。
人が、降りてきた。
人、だろうと思う。とにかく何やら白いものがこちらに向かって降りてくるのだ。
すーっと、一直線に、ゆっくりと。