素顔のキスは残業後に
五月さんから聞いた『彼女』とも行ったのかな?

そんなことを考えながら運転席の彼へ視線を流す。


まっすぐ前を見つめる漆黒の瞳は仕事をしている時と同じ。
だけどスーツでない彼の普段着は初めて見るもの。


黒地にVネックラインの薄手のセーター。

至近距離に見える首筋から鎖骨までのラインに、トクンと鼓動が反応してしまう。


行き交う車のライトと街灯に照らされた横顔を見つめていると、この時間がものすごく贅沢に思えた。


贅沢? あぁ。それは――…そうだよ。

だって会社で誰かに話したら、羨ましがられるシチュエーションNO1だ。


でも、どうしてだろう。
ふとした瞬間に会話が途切れてしまっても、息苦しくない。


静かに流れるBGMとエンジン音が心地良く耳の奥まで響くと、
なんとも言えない温かい気持ちで、胸がいっぱいになる。
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