素顔のキスは残業後に
静かに加速していく鼓動を服の上から押さえつけることしかできない私に、彼はふっと息をついてから笑った。


「時間切れ。寒いから、コート着て降りろよ」


緊張で痺れた頭をポンッと軽く叩かれる。
後部座席に置いていたコートを手渡されて、そこでやっと体の硬直が解かれた。



道路脇に停めた車から少しだけ歩いて、

この辺りに住んでいる人しか知らないであろう、ベンチとブランコしかない小さな公園に辿り着いた。


高台にあるこの場所は街を見渡すことができて、しばらく眼下の景色を眺めてから
隣に立つ彼へ視線を動かす。


ひんやりとした夜風が彼の前髪を静かに揺らしていた。


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