素顔のキスは残業後に
「よっ。宣伝部名物、名コンビ劇場の始まりだな」


そんなからかうような口調でふたりの間に入ったのは、遠目からでも上質と分かるスーツに身を包んだ中年男性。


あと数年もすれば役員の椅子が約束されていると社内でも噂がある宣伝部の部長だった。



「おい、柏原。このまま言いくるめられたら、一生頭があがらんぞぉ」


「分かってますよ。材料はすぐにでも提出します」


冗談混じりの部長の声がフロアーに鳴り響くと、引き攣っていた彼の頬が緩んでいく。

張り詰めた空気が穏やかなものへと変わる。


一瞬で空気を変えてしまう人って、本当にいるんだなぁ。


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