素顔のキスは残業後に




空が低くて厚い雲に覆われた土曜日。

柏原さんとほぼ1日かけて6件の内見を済ませて、不動産会社に戻って来ていた。


感じのいい営業マンが上司らしき人に呼ばれて席を外すと、
それまで黙っていた柏原さんに顔を覗き込まれる。


「なんだよ、その締りのない顔」


「締りないってっ、失礼だと思いませんか?」


「まったくオモワナイ。事実だし、実際。それより今日のいまで、決めるつもりかよ?」


「えっ。だって3件目の物件。すごく好条件じゃないですか?」



6件回った中で3件目の物件は営業マンも一押しだった。


日当たりも良くて角部屋。しかも管理費を含めた家賃だって、考えていた予算より5千円も安かった。
駅から少し離れているのが難点だけど、それを充分補う設備も魅力的だ。

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