素顔のキスは残業後に
雅人の隣にいる女の人は、婚約者だよね。


彼女の左薬指にある幸せの証を見て、いいなぁって思ってしまうのは完全に第三者的な感想だ。


175センチの雅人と並んでも頭が一つ小さい彼女は、
柔らかそうな笑顔を雅人に向けていて、ふたりはお似合いだなって素直に思うことができた。


「えっ。桜井――……と、柏原さん!?」


私と彼の視線にようやく気づいた雅人から、そんな気の抜けた声が漏れる。

彼の人の良さそうな大きな瞳が柔らかく細まる。

(これも完全に第三者的な感想だ)



隣にいる大切な彼女が彼の肩を叩き、不思議そうな顔を向けているのに。


「えっと……あっ、そっか。そっか、そっかぁ!」


一人で納得するように頷き始めた雅人は、
今日の湿り気を含んだ空気を吹き飛ばすような明るい声をあげた。

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