素顔のキスは残業後に
自分を偽るのは意外と簡単で、母にも誰にも見透かされることはない。

そう思っていた。


弱さを隠しきれない不器用な素顔。

誰かに知られるのが、大切な人に知られるのが怖かった。


だけどそんな自分を誰かが知ってくれていることは、
思っていたより心地良くて、ずっと出せずにいた答えに辿りつけた気がした。


何かに執着することがなかった自分が

いま初めて強く願う。


この手を離したくない――……


さっきより少し指先に力を加える。

僅かな隙間を埋めるように彼の指先が応えてくれる。

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