素顔のキスは残業後に
ずっと慕ってきた由梨さんに、そんな感情を一瞬でも抱いてしまった自分を叱責したくなる。


だけど、二人っきりだったら――……

きっと息が詰まってしまうから。


「総務の仕事とプロジェクトを抱えて大変よね」


そうやって私を気遣う様子も変わらない。

だから、曖昧に笑って足元に視線を落とすことしかできない。


由梨さんはこれから大阪に戻って

来週また戻って来るらしい。


すぐそばにあるはずの声がどこか遠くから聞こえる。


ぼんやりとした意識に、
エレベーターの到着を告げる軽やかな音が紛れ込んだ。



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