素顔のキスは残業後に
きっと、伝え忘れただけ。そう思うことにした。

悔しいけど、納得なんて出来ないけど、すでに終わったことを考えても仕方がない。
昔から何事にも諦めがよかったはず。だからこんなこと、なんてことない。

大丈夫。大丈夫。大丈夫…だ。

そう心に言い聞かせて気持ちを落ち着かせていると、柏原 柊司は私の顔を斜めに覗き込み、小さく笑った。

「まぁ、あの部長だったらそれくらいやりそうだしな。でも、そんな嫌がらせされるなんて、やり合ったんだろ?
桜井もなかなかやるじゃん」

不意打ちのそれに言葉を失う。
部長に間違ったことは言ってない。後悔もしてない。

だけど、どうしてだろう――。

嫌みのない優しい笑顔に、トクンと胸が震える。

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