素顔のキスは残業後に
一緒にいた時間は長くはなかったし。

ときどき意地悪なことやからかわれたりもしたけど、彼は見た目のクールな印象よりもずっと仕事に対しては熱く真面目な印象を持った。

それと書類整理を終えて少しうたた寝をしてしまっていたら、

『腹ん中、見透かしてやった』

と彼は意地悪に笑ってコンビニで買って来たおにぎりとプリンを差し入れしてくれた。

強引で意地悪で惑わすことも言うけど、素直に言葉にできないだけで優しい人なのかな?

社員食堂を出てからも、無言で廊下を歩き続ける柏原 柊司の背中を見つめながら、そんなことを思う。

でもね? 今更ですけど、どこまで行くんだろう。

「あのっ。どこに行くんですか?」

心の呟きをそのまま声にしてみたけど、そのまま流されてしまう。
誰もいない階段を降りたところで、ようやく彼は立ち止まった。

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