素顔のキスは残業後に
私より1段下がった彼が振り返ると目線が同じになる。

食堂のざわめきが微かに耳に届くだけの音のない場所。
息遣いを感じるほどの距離に視線を逸らそうとすると、見覚えのあるプラチナのピアスを手渡された。

「一昨日の夜。これ、落としてったろ」

「わぁ。ありがとうございます。どこに落としたのかなって思ってて。少し無理して高いの買っちゃったからショックだったんですよ」

なんだ。みつけててすぐに届けてくれたなんて、やっぱりいい人。

意地悪だなんて思って申し訳なかったなぁ。

胸がほくほくになって、声を弾ませると、私を見下ろす涼しげな瞳が不機嫌そうに細まっていく。

「言い訳長すぎ」

「は?」

イイワケ? 言い訳ってなにが――

意味が分からずに首を斜めに傾ける。すると柏原 柊司はふっと意味深な吐息を漏らしてから、顔を寄せてきた。
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