【B】姫と王子の秘密な関係



「わかった……。
 この家もずっと、このままにしておくよ。

 合鍵も渡す。
 住人登録もしておく。

 会いたくなったら、俺に連絡を入れてここで待ってるといいよ。

 俺が此処に駆けつけるから」



次の瞬間、信じられない言葉を晃介さんは続けた。


その日、昼頃まで晃介さんのマンションで過ごして、
私たちは店舗へと出勤する。


向かうのは桜川一丁目店。


三月の終わりになった頃、晃介さんが採用した新店長が
研修を終えて、桜川一丁目店の新店長として着任する。


お父さんも病院から二週間で退院して、その後の自宅療養を経て
四月、見事にオーナーとして現場復帰を遂げた。




何もかも新しく動き出した新生活の四月。




フレンドキッチンのスタッフ雑誌が、
SV経由で店舗へと手渡され、休憩時間にその冊子の頁をめくる。




フレンドキッチン社長  早谷仁人
フレンドキッチン 本部長 藤井亮平


第一営業部 統括部長……



そうやって、経営者人の中に名前を連ねている人たちの中で、
見知った顔と、その名前を見つける。



フレンドキッチン 執行役員 早谷晃介





そこに掲載されているのは、晃介さんの顔写真そのもので
記載されているインタビューを食い入るように見つめた。








フレンドキッチンの若きプリンス。

早谷晃介氏は、現社長 早谷仁人さんを養父にもち
故・高崎幸晃社長の忘れ形見。



そうして、自己紹介が記されて、
夏頃から今日まで、実店舗での研修や、本部の人としての研修を重ねてきたこと。

それに関わってきた研修期間での、数字として出した輝かしい成績とかが
細やかに記されていて、最後には次期フレンドキッチンの社長候補として今後は
フレンドキッチン内の様々なものを企画・改革して会社を
発展させていきたいと言うような内容が綴られていた。




スタッフ雑誌を読んだ途端に、
店舗内が騒がしくなる。




高崎さんが、
早谷コーポレートの御曹司? 





流石のお父さんと、お母さんも声を失っているようだった。



雑誌を見て……テレビに映る、記者会見を見て
私は、あの日の晃介さんの言葉の重さを噛みしめた。





ねぇ、晃介さん。


私は本当に、貴方の彼女でいいの?
胸を張って、貴方の隣に立ってもいいの?



そんなことを思いながら、仕事に集中出来ないまま
シフトに入っていた。




「お疲れ様です」



聞きなれた晃介さんの声が、
店舗内に響く。



ただそれだけで、
何とも言えない緊張感が走って行く。




「驚かせてしまいましたね。

 向こうでは、早谷晃介ですが
 こっちでは、俺は高崎晃介です。

 まだまだ俺も勉強が必要なんで、
 引き続き、遠野オーナー夫妻、宜しくお願いします」


そんなことを言いながら、
気軽に私たちと接してくれる。

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