【B】姫と王子の秘密な関係

「お父さん、お待たせ致しました」


養父は腰の低い物言いで、
会長の機嫌を探るように話しかける。



「仁人、晃介そこに座りなさい」


お辞儀をして、部屋の中に入ると、
促された場所に、俺と養父は腰をおろした。



「晃介、こちらが本部長の藤井君だ」



そう言って、切り出されたのは
会長の傍で、居住まいを正す男性。




「亮平君、晃介の為にわざわざ済まない」


次は控えめに養父まで言葉を続けていく。



三人の視線は、俺へと向けられる。


「初めまして。

 早谷会長と君のお養父上、仁人さんに話を頂いて
 お会いするのを楽しみにしていました。

 本部長の藤井亮平です。

 晃介坊ちゃんが、正式に入社されるまでの間の研修を
 陰乍らお手伝いさせて頂きます」


藤井さんはそう言うと、ゆっくりと頭を下げた。


「こちらこそ、ご丁寧に有難うございます。
 早谷晃介です。

 研修の間は、他社員が混乱するのもいけませんので
 高崎晃介として勉強させて頂きます」


慌ててお辞儀をすると、
途端に、会長である祖父の視線が俺に突き刺さる。



「晃介、上に立つものとしての振る舞いをしなさい。
 亮平君は、ゆくゆくは晃介の部下となる存在」


部下とか上司とか、今の俺には関係ない。

人が人として感謝と礼を尽くしたいときは、
自然と頭は下がるものだろ。

藤井亮平さんは、将来の部下となる人かも知れないが
今の俺にとって、指導者以外のなにものでもない。

だからこそ、自然と頭が下がるのがどうして受け入れられないのか
僅かな疑問が残りながら、その後の会食は続いた。

会食がお開きになった後は、早谷の自宅ではなく
高崎名義のマンションへと帰宅して、明日の出社に備えた。


三月の卒業を目指して、大学を有意義に休学している期間の間に
会社の業務を新入社員の立場で学習する。


次の日、俺は約束の出社時間に電車を乗り継いで
本部へと顔を出す。

インターフォンを押して、昨日覚えたばかりの藤井さんの名を出すと
内側から鍵が開けられる。
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