【B】姫と王子の秘密な関係


「小川さん、少し店舗内を見て来ます」



そう言って断りを入れて、俺は事務所を後にする。



事務所のドアを開けて、
フロアーに出た途端、名札に遠野を書いた
さっきから何度も顔を合わせた女性が、レシートを片手で握りつぶして
ゴミ箱へと投げつける。




「お疲れ様。
 あまりストレスため過ぎると体に悪いよ。

 えっと、遠野さん」


名札をチラリとみて、名を呼びながら
近づく俺を、遠野さんは警戒の視線を向ける。




「遠野さんはここのオーナーさんのお子さん?」

「あっ、はい」

「名前は?」

「遠野音羽です」


乙羽さんと同じ音を持つ名前に、
俺の心がドキリと高鳴る。


「音羽さんね。
 で、隣が檜野さん」

もう一人の女の子名札も確認して名を呼ぶ。


「改めまして、高崎晃介です。

 今日から、春頃までかな、お邪魔させて頂くと思います。
 大学行きながらなんで、顔出せる時間は限りがあると思うんだけど。

 音羽さんか、檜野さん。

 どちらでも構わないんだけど、
 店舗を案内していただけますか?」



そうやって警戒心を解かせたくて、これから俺がやりたいことへの
サポートを依頼することにする。


そんなやりとりをしながらも、
俺の記憶は、この二人と何処で出逢ってるような気がするのか
必死に思考をめぐらせていた。



俺のサポートについたのは遠野音羽さん。



彼女と共に俺は、店舗の外から中。

ゴンドラの棚と、商品ジャンルの一つ一つの位置までをじっくりと確認しながら、
ノートにメモを取り続けた。


店舗と上司の間に
板挟みになる職業がSV。



俺の最初の研修がゆっくりと幕を開ける。

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