【B】姫と王子の秘密な関係
「有難うございました。
またご来店お待ちしています」
お客様に決まり文句の挨拶を交わしながら、
キャッシュドロワ-にお金を片付ける。
キャッシュドロワ-って言うのは金銭のやり取りの際に、
紙幣や硬貨を保管しておくためのアイテムの名前で、略してドロワ。
所定の位置に、素早く小銭を片付けながら滲み出る額の汗を拭い取る。
今は真夏の蒸し暑い深夜勤務時間。
私、遠野音羽【とおの おとは】。
この春、大学生になったばかり。
女子大生の私がこんな深夜勤務の時間帯を
お父さんから受け継いで一人でシフトインしてるには訳がある。
本当は土曜日の深夜帯にシフトに入って貰ってる
50代のおじさんがいるんだけど、
シフトの二時間前にお店にいきなり電話。
『すいません、体調崩して行けそうにありません。
明日の本職、穴開けるわけに行かないんで休みます』
本職と掛け持ちしてるスタッフさんも多くいる
コンビニ経営の現状。
本職の方が最優先になるのは、
もうどうすることもないわけで、この店舗のオーナーを務める
父親はフリーズ。
もう少し時間帯が早ければ、
交代人員を見つけることも出来たんだけど
連絡を貰った夜の22時から人員手配なんて出来るはずもなく、
日勤業務の後、僅かに時間だけ仮眠してそのまま夕方~深夜帯まで
働き詰めのお父さんを追いやって、店内業務を切り盛りしてる。
夜のコンビニ。
立地条件にも寄るだろうけど、
飲み屋街の近くにあるコンビニだから、
意外に夜もお客さんたちは多い。
キンコーン。
店内にあるベットボトルのドリンクを冷やす
冷蔵室で、入荷した商品を検品して片付けている作業をしていると、
入口のドアが反応して、お客様の来店を告げる。
慌てて冷蔵室から飛び出して、
事務所を通り超えて、レジカウンターへ。
「あらっ、今日はシゲさんじゃないんだ。
音羽ちゃん、夜【よる】勤務もするの?」
「あっ、お疲れ様です。
今日、シゲさんダウンで、最初お父さんがしてたんだけど
仮眠させないとだから」
「あらあらっ、それはお疲れ様」
「それより、ミカさんもいつもお疲れ様です。
お酒の後は、スプライトですか?」
「そうそう」
常連の飲み屋の姉さんと、いつもの様に世間話を交わしながら
金銭のやり取りをして、袋に手早く商品を詰めていく。
「有難うございました。
またご来店お待ちしています」
そう言ってカウンターの中で、一礼をしながら
ミカさんを見送る。
そうこうしている間に、
駐車場にトラックが停車したのを確認する。
今日、最初のお弁当と日配品そしてパンの入荷時間だ。
チラリと時計に視線を向けて、
冷蔵室の電気を一度消灯させると、
売り場でドライバーを迎える。
「おはようございます」
大量のケースを積み上げて、
カラカラと台車を押して、
店内に商品を運んでくるドライバーさん。
「おはようございます。
お疲れ様です」
「お疲れ様です。
って、音羽ちゃん、
今日はこんな時間からかい?」
荷物を運んで来てくれた人は、
私が小さい時から、顔見知りのベテランドライバーさん。
「シゲさんが体調崩したみたいだから。
ほらっ、うちのお父さんも
仮眠くらいは必要でしょ」
「おぉ、優しいねー。
音羽ちゃんは……。
俺んとこの娘にも音羽ちゃんの爪の垢煎じてやりたいわ」
そんな世間話をしながらも
私は検品用のハンディー端末を手にして
次から次へと、注文数と入荷数の狂いがないかを
素早くバーコードをスキャンしながら数えていく。
私が検品している間にも、荷物はドンドン運び込まれて
タワーになっていく。