【B】姫と王子の秘密な関係








カーテン越しに射しこむ光に導かれるように
ベッドから体を起こす。

今日も出勤準備をしなきゃ。


久しぶりに夢で再会した憧れ続けた父の背中。



だけど……あの頃夢見た憧れと、
現実の世界は、あまりにも違い過ぎて。





……父さん……
お父さんも、こんな風に社会の理不尽に
向き合い怒りを覚えたこともあるのですか?




大学を休学し研修を初めて、
すでに二か月が過ぎようとしていた。


夏の残暑が強かった季節から、
少しずつ秋が近づいてくるのを感じる。


ベッドから這い出した俺は、
軽い朝食を食べて、出社した。





研修中の俺が心がけているのは、
一番乗りで入ること。

他の社員たちが姿を見せる前に、
軽く部屋の掃除を終えて、迎え入れるようなイメージで。



朝の風景は、俺に様々な情報を提供してくれる。


仕事をしているだけだと、見えてこない
人としての全体像。


常に一気に人が集まっている時間と違って、
少しずつ増えてくる出勤時間は、
普段話せない人とも、
真っ直ぐに向き合えるそんな時間でもあるから。




「おはようごさいます」

「あっ、おはよう。
 高崎君いつも早いわね」

「逢野(おうの)さんこそ、
 今日、いつもより早くないですか?」



逢野美嘉(おうの みか)さん。
入社二年目の、この営業部での若手社員。



「あぁ、私少し化粧ルーム行ってくるわ。

 私が受け持ってる店舗の経営者が、 
 体調崩しちゃって、夜中に呼び出し。
 
 店舗応援行ってたの」

「そうだったんですね。
 それはお疲れ様です。

 化粧室、行ってきてください。
 テスクに、少し甘めにしてコーヒー置いときますよ」

「有難う、助かるわ。
 会議までに眠気飛ばしとかないと」




そんなことを言いながら、
逢野さんはすぐに化粧室の方へと出かけて行った。


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