【B】姫と王子の秘密な関係



「うん。
 有難う」


伝えようと思った言葉を飲み込んで私は、
和羽に感謝の気持ちを伝えた。


私の自分勝手で、和羽の努力を無碍にするようなことは
しちゃいけないと思ったから。


電話を切って、明日の準備をして私は
ベッドに潜り込んだ。


心の中は今も、もやもやとしたままに。




翌朝、6時。



和羽から着信が入る。



「もしもし?」


何かあったかもしれないと、慌てて電話に出ると
電話の向こうで、和羽が申し訳なさそうに伝えた。



「ごめん。
 音羽、あと少しだって油断しちゃったのかな。

 途中で記憶とんじゃってるんだよね。
 寝落ちしたみたいで、今起きて未完成で焦ってるの。

 Tranceコス、今日絶対にやらなきゃダメかな?
 
 衣装が間に合わなかったから、
 前のコス、もう一度出来ないかな?」



突然の和羽からの電話に、
私は同意するように頷いた。


約束コスは、
私がアキラさんとの会話でやりたかった合わせ。



「和羽にばっかり無理させてごめん。
 完成しなかったのは、和羽のせいじゃないから。

 だから……今日は一緒に、約束コスしよう。

 昨日、本当は切り出したかったけど和羽が頑張ってくれてたから
 言えなかったの。

 アキラさんが……連絡くれて、約束の合わせしたいって言われたんだ。
 だから和羽も良かったら、総司コスして貰えないかな?」

「うん。
 わかった……総司コスで、音羽の傍に立つよ。

 音羽は、今回は瑠花じゃなくて花桜だよね。
 アキラさんに合わせを頼まれてるなら」

「うん……。ごめん」

「なんで謝るのよ。
 
 音羽がやましさを感じる必要なんて何処にもないよ。
 そっかぁー、音羽がアキラさんとそんなことになってたなんてね。

 私も早く、彼氏探さなきゃ。
 弟にも、もう彼女がいるって言うのに……何処かに居ないかなー」


和羽はそんな風に言いながら、
私が罪悪感を持たなくてもいいように、
ふるまってくれてるのがわかった。


「7時半、何時もの駅前で」

「うん。
 じゃあ、後でね」




電話を切った後、私はPCを立ち上げて
SNSにアクセスする。


メッセから辿り着いたアキラさんのSNSマイプロフルーム。

その部屋に入って、
私は和羽の言葉の意味を何となく理解した。

【フレンド】と記されたところには、
乙羽と香寿の名前。




アキラさん、私が言い出せないかも知れないのを先読みして
多分、和羽にメッセで伝えてくれてたのかもしれない。


それであんな形で、
和羽は朝から私に連絡してきてくれたのかもしれない。


モニターを見つめながら、そんな二人の優しさに
目頭が熱くなった。


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