【B】姫と王子の秘密な関係
ゆっくりと流れる穏やかな時間に、
電話を握りしめながら、ポタポタと零れ落ちる涙を感じた。
「明日、イベントで会えるのを楽しみにしてる。
Tranceコスを予定してるとSNSで知った。
俺の方の衣装は、今日の明日だと間に合いそうにないから
俺は何時もの土方のままだと思う。
もし叶うなら、同じ時間を共有させてほしい」
同じ時間を共有させてほしい。
アキラさんのその言葉だけがストレートに
心に届いた。
「香寿がTranceの衣装を徹夜して作ってくれてるんです。
だから香寿に確認して、
許して貰えたら、花桜やります。
そしたら傍に居させて貰えますか?」
「あぁ、構わない。
その時は、香寿さんにも総司をして貰えないか聞いておいてくれ」
「わかりました」
「じゃあ、また明日」
「あっ、えっと今日は電話有難うございました。
わざわざSNSで調べてくださって、
多分、メッセを送るのに登録までしてくれたんですよね。
私、アキラさんのことを何度もSNSで探したけど
見つけられなかった。
だけど……今日、アキラさんはメッセをくれた……。
凄く嬉しかったです。
おやすみなさい、また明日」
言いたいことを一気に伝えると、
私は携帯の通話を切った。
着信履歴をもう一度呼び出して
アキラさんの名前を見つめる。
そしてそのすぐ後ろにある、
親友、和羽の名前を見つけるとカーソルを動かして
ゆっくりと発信ボタンを押した。
メロディーコールで、
和羽の好きなバンドの曲のサビが流れ始める。
「もしもし」
電話の向こうから和羽の声が聞こえた。
「和羽……」
「お疲れ様、音羽。
少し落ち着いた?」
「うん」
「良かった……。
コスの方はそうだねー、もう少しで完成しそうなんだけど
その最後がわからないんだよね。
資料の画像が不足してるんだ。
翠聖神の着てる衣装の袖口ってどうなってるんだろう。
着物のようにも見えるけど、ギリシャ神話とかにな出てきてる
そんな袖口にも見えるんだよね。
でも……ちゃんと朝までには間に合わせるから」
そう言ってくれた和羽の言葉に、
私は息を詰まらせる。
こんなに必死に作ってくれてるのに、
それなのに……私、言えないよ。
アキラさんに誘われたからって、
Tranceコスをやめて、約束コスをもう一度したいだなんて……。