【B】姫と王子の秘密な関係



「こんにちは。
 アキラさま、今日も賑やかですね」




親しげに会話をしていく伊代さま。




「伊代は斎藤なんだ。
 そちらさんは?」

「私の友達、瑠花をしてるのが乙羽さま。

 沖田さんをしてるのが、
 乙羽さまのお友達で香寿さま」


「初めまして、
 伊代さまとは親しくして頂いています。
 
 私は乙羽。
 漢字は、乙女の乙に羽です。

 隣に居る総司は、親友の香寿。
 お香の香に、寿で香寿です。

 宜しくお願いします」


伊代さまに紹介された後、
怒涛の様に、漢字の説明までする私。

テンパりすぎだ……。

そんな自己紹介をしつつも、
気になるのは、アキラさんの反応。



「ふーん。

 美紗は今日も舞か」


呟かれたアキラさんの口調は、
興味なさそうにもとれて……すぐに話題は
伊代さまのお友達へ移ってしまった。



「私はヒロインで、
 いろんな隊士の人たちと絡みたいんです」

「まぁ、好きにしてなよ」




そんな会話を繰り広げられてるのを
呆気にとられながら見つめる私。




「アキラさま、本物に逢えて嬉しいです」

「本物ってなんだよ。

 まぁ、せっかく近づけたんだ。
 一枚、後で撮ろう。

 その前に、次の子の相手だな」




そう言うと土方アキラ歳三は、手慣れた風に
撮影希望の女の子たちに、一時の夢を提供すべく
望むままのボースで、抱きしめながら
記念の一枚を演出していく。



撮影が終わったらしいアキラさまが、
ゆっくりと私たちの方へと、艶やかさを振りまきながら
近づいてくる。



「悪い、向こうで姫君たちに絡まれてた」




そうやってアキラさんは、
照れもなくサラリと紡ぎあげる。




「じゃあ、まずは舞と瑠花を前にして
 一【はじめ】と総司と歳で、後ろ固めてみましょうか」


伊代さまの言うままに、
撮影の立ち位置を入れ替えて、
記念撮影。


自分たちで撮影できないので、
近くに居た人にカメラを預けてお願いする。



一斉に向けられるカメラのレンズ。



シャッター音が鳴りやまないままに、
ある意味、ファンサービスをして
そのまま、豪華な組み合わせのまま喫茶スペースへと移動していく。



水分補給もやらないとやってらんないわ。


大好きなイベント、倒れたらバカらしいからね。


足元を見るような、少し高めの料金設定になって自販機に
怒りを覚えながら、スポーツドリンクを購入すると
一気に体の中に吸収していく。




あっ……ちょっと吐き気来たかも。

水分補給のタイミング、失敗したなー。



そんなことを思いながら、
自分の体調と格闘してると、
アキラさんが私の方に視線を向けた。



「救護室行く?

 今日は暑いからねー」


「あっ、大丈夫。
 すぐに落ち着くと思うから」




そう言いながらも、まだすっきりしない体調に
ぼーっとしてる意識。



ふと、冷たいシートが額に当てられる。



気持ちいい……。


慌てて見上げると、そこにはアキラさんの胸板が
着流し越しにチラリと見える。



「あっ、わっ……私」

「御免。
 びっくりさせた?

 石田散薬じゃなくて悪いけどな
 冷え冷えシートも便利だろ」




そうやって気づかれてくれる、
アキラさまの好意に甘えながら、
私はその冷たい感触に身を委ねた。



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