【B】姫と王子の秘密な関係


『俺のタバコ・私のタバコ』『いつもの眉かくの』『私のパンは入っとるか』

当たり前のように覚えていったものから、最初にコンビニのシフトに入った日に『私がタバコ言うたらこれを出すように』って
教えられたもの。

そんなお客様の態度に、苛立ちを覚えることもあるけど
『特別』って言う意識が、店舗の固定客を作っている現実もあるのだと感じられた。



「桜川一丁目店は現在、経営者交代の準備期間で本部社員が預かっております。
 私自身も、店舗スタッフとしておりますので、お客様の嗜好を一日も把握できるように努めてまいります。
 今しばらくご不自由をおかけしますが、今後とも宜しくお願いします。
 他にお客様のご要望や、リクエストはありますでしょうか?」

「そうねー。
 なんて言うか、お店のレジ前にお惣菜が沢山並んでるわね。

 スーパーとかだったら、スーパーなんだからって諦めもあって冷えているものを買って家でオーブントースターやレンジで温めて食べるって
 言うのも仕方ないと思うのよね。

 スーパーなんだから。
 だけどコンビニさんなんだから、できたてほやほやを提供するって出来ないのかしら?

 まだ温かい時は、あら今日は温かいわねって思えるけど手を伸ばして冷めてた時なんて、購入するかどうか悩むのよね。
 温めを頼んで、レンジで温められた時なんて、がっかりしたわ」



そう言って、コンビニの商品に対する素直な感想を吐き出していく
パワフルなおばさま。


店舗スタッフだって言いたいことはいっぱいある。
あのお惣菜関連の業務が増えて、仕事量が一気に増えた。

沢山ある種類のお惣菜を順番に揚げて、油を切って、パックに詰めてサーマルラベルを貼り付ける。
フライヤーを酷使して、あげつづけても気が付いたら一時間くらいあっという間に過ぎてる。

だけどスタッフの仕事は、惣菜作りだけじゃなくて、レジも発注も検品も掃除も陳列もきりがない。
だけど基本、店舗スタッフは二人。

お昼時や、荷物が入ってくる時間帯で多くて三人が基本。

今のギリギリの体制で、そのクオリティーを求められたらスタッフは死んじゃうよ。


こっちはスタッフ側の本音になるのかな。
スタッフが出来る限界以上のものを常に求めるのがお客様側。



「お客様の貴重なご意見、本部に持ち帰らせて頂きたいと思います。
 リクエストにお応えするためには、現在の店舗スタッフを増員させる必要が出て参ります。
 
 スタッフの増員となりますと、お店側の状況に寄っても変わってまいりますので
 話し合いの末、検討させて頂きます。

 スーパー化を続けるコンビニにとって、スーパーとコンビニの提供に関するお客様側が求めるクオリティ。
 貴重な意見を有難うございました。

 最後に、僅かではございますがこちら粗品です。
 来週の企画のチラシも持参しましたので、宜しければご覧ください。

 お休みのところも申し訳ありませんでした」

「兄ちゃんも、そっちの若い姉さんも大変やね。

 まっ、あんたらみたいな頑張っとる人がいるんやったら、
 また行くわ。

 今までみたいに特別扱いしてや」

「こちらこそ。

 一日も早く、ご期待に添えますように頑張ります。
 店舗で、ご来店お待ちしています」


玄関先で話詰める間に、最初は警戒していたお客さんが少しずつ警戒心が緩んで
最後には私たちを気遣ってくれる。

そんなお客様の変化にも驚いた。



こうやって、お客様に直に触れ合う店舗外のコミュニケーションが
フィールドワーク。



そんな仕事もコンビニに存在したんだって思うと、
ちょっとびっくりした。
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