【B】姫と王子の秘密な関係

15.晃介さんとアキラさん -音羽-



ゼミ仲間の家にレポートをまとめに出掛けた帰り道、
偶然出会った、高崎さん。


うちのコンビニ以外で見るのは、
初めてで、店舗以外で動く高崎を見ながら
私の中では、何故かあのアキラさんと重なる。


ずっと気になってた……。

気になりながらも、考えないようにしてたけど
やっぱり、ちょっとした時に高崎さん=アキラさんなのかもって
言う想いが膨らんでいく。


もし……それが現実なら凄く嬉しい。


そんな思い重なって、私はわざとゆっくりと歩きながら
高崎さんの方に視線を集中させた。


高崎さんは、多分……この家を訪問したのだと思う。
だけど……どうして?


コンビニがお客様の家を訪問するときって言ったら、
何かトラブルが起きた時を想像する。


商品をスタッフが入れ忘れた?
つり銭トラブル?


この場合は、店舗スタッフか責任者がお客様の家に
商品を届けに行くレベル。


他には考えられるのは……
暴力団とのトラブル?

異物混入、食あたり、食中毒?
店舗スタッフとお客さんの暴力事件?

店内事故のフォロー?
近所からの騒音などのクレーム対応?




思いつくままに脳内で想像するものの、
どれもし視界に捉えた、その家の住人らしき人と
当てはまらない。



そんなことを思っていたら、高崎さんは丁寧にお辞儀をして
その家を離れた。



「高崎さん」



思い切って声をかける。


暫くの沈黙の後、驚いたような眼差しを向けて
「音羽さん、こんにちは」っといつもの調子で声を返してくれた。

高崎さんの言葉を受けて、
ゆっくりとお辞儀をしながら近づく。

「高崎さん、こんなところでどうしたんですか?」

「フィールドワークって俺たちは言ってるんだけど、
 店舗周辺の情報収集してた。

 今日は、あの角までだから、後三軒かな。
 音羽さんは?」

「あぁ、私は大学のゼミ仲間がこの先に居るんです。
 それでレポート作成しに、友達の家に。
 今日は和羽はダンスのレッスンだし、私もバイトは休みだから。

 あの……もしよければ、
 後三軒一緒についてまわってもいいですか?」 



お仕事中の高崎さんに一緒についていきたいって
私、何言っちゃったんだろうって、言葉にした瞬間に後悔したけど
だけど少しでも一緒に過ごしてみたくて、気が付いたらお願いしてた。

断られるかもしれないって思ったものの、高崎さんは頷いて同席を許してくれた。


残り三軒。

私は高崎さんの隣に肩を並べて歩きながら、
最初の家へと向かった。


「チャイム押すよ」


インターホンの前でゆっくりと立つと、
高崎さんは優雅な仕草でチャイムを鳴らす。


「お昼のお休み時間帯に申し訳ありません。
 私、近くでコンビニを運営していますフレンドキッチン本部社員の高崎と申します。
 本日は、桜川1丁目店周辺のお客様にご挨拶を兼ねて、一軒1軒まわらせて頂いてます。
 宜しければ、お時間を頂けませんか?」


高崎さんはスピーカー越しにお辞儀をしながら用件を告げた。

「あぁ、あのコンビニの人ね」

中から聞こえたのは、少し警戒心の強そうな声。
だけどスピーカーは切れて、中の住人が顔を覗かせた。


「あらっ、もう一人居たのね」

「先ほどご挨拶させて頂きました高崎です。
 彼女は、フレンドキッチンの店舗スタッフをしております遠野と申します。

 社内で一番身近にお客様と接している部署に努めておりますので、
 今後の勉強も兼ねて同行させております」

そう言って高崎さんは私の説明まで告げて、頭を下げた。
それにつられるように私も深くお辞儀をする。


「あそこ、オーナーさん変わったわよね。
 何時ものあの人見なくなって、不便になったのよね。

 前の人は、あれを買いに来たって言ったら
 私の欲しい銘柄の商品をすぐにだしてくれたのよ。

 私の好みを全部覚えてくれてるもんだから、このお店は特別って言う意識が強くて
 好きだったのよね。

 でも今はどう?何時もの感覚で注文したら、細かく質問を返されて邪魔くさくなったわね。
 いちいち、欲しい商品の名称なんて覚えてないもの」


中から出て来たお客様の率直な意見。


確かに私たち末端の店舗スタッフは、お客様と親しくなると
常連のお客様の好みとか把握していく。
< 87 / 129 >

この作品をシェア

pagetop