Cross Over
お店をあとにすれば、
夜景が見える展望台へ、彼は車を走らせた。
車の中では、また他愛もない話しで笑いあって。
途中、彼が運転席の窓を開け、
『煙草、吸っても大丈夫?』と訊ねた。
大丈夫です、と答えれば
スーツのポケットからライターと煙草を取り出す彼に
自然と視線を向けた。
ふいに、その煙草の銘柄が目に写る。
煙草には、
病室に置き忘れられていたものとは、違う銘柄が描かれていた。
なんだ、…やっぱり、違ったんだ。
ふと安心したような表情で、視線を助手席の窓に移し、
他愛もない話を続けた。
ガラス張りの展望台にあがり、目の前いっぱいに広がる夜景を目にした途端、わぁーっと大きなガラス越しに駆け寄る。
先輩も後ろから静かに歩いてきて、隣りに立つ。
久しぶりに見た綺麗な夜景に、目を輝かせたまま、自然に隣りにいる先輩を見上げて嬉しそうに笑った。
夜景を見ていた先輩が、すぐに視線に気付き、私の顔を見て微笑み、ガラス越しの夜景に視線を戻した。
『先輩の誕生日っていつですかっ?』
唐突に聞いてみる。
『何月だと思う?』
聞き返されてふと先輩のほうを見上げると、
意地悪そうに微笑みながらこちらを見る先輩が目に入る。
そのクールな、でも優しいような表情に少し顔を赤らめてうつむきながら、
うーん、と少し考えて、
『1月!!』
と答えた。
先輩は、声がでかいと笑いながら、
違う、と首を横にふった。
『じゃあー11月っ!』
『俺、寒い時期のやつで決定?』
先輩が少し笑って、こちらを見る。
『なんか先輩冬生まれっぽい気がして』
楽しそうに笑いながら言うと、
先輩は夜景を見ながら答えた。
『全然。6月だよ。』
6月・・・6月って・・・
『来月ですか!?』
声をあげて先輩を見ると、
『そうだな。』
ふとこちらを見て先輩が笑う。
『何日ですか?』
私の問いに、答える。
『26』
来月なんだ。過ぎてなくてよかった・・・っ
心の中でほっとしていると
ふと疑問が沸いた。
そういえば先輩って・・・
『先輩って来月の26日でいくつになるんですか?』
そういえば、先輩が何歳なのか知らなかった。
すごい落ち着いた人だから、きっとすごい年上そうだけど。
『30だよ。』
夜景を見ながら先輩が答えた。
『ちょっと離れすぎ?』
え・・・・?
ふっと先輩を見上げると、こちらを真っ直ぐ見つめていた。
『そっ・・・そんなことないですっ』
瞬時に顔が熱くなるのを自分でも感じながらうつむく。
ふっと先輩が笑って、
『じゃあ、よかった。』
とつぶやいた。
その後も、少し他愛もない話しに花を咲かせて、展望台をあとにする。
車に乗り込んだ時、先輩が家まで送るから、と言ってくれた。
家の前に到着し、シートベルトを外しながら先輩に言う。
『今日は、ほんとにありがとうございましたっ。』
『いや。』
先輩もこちらを見る。
『じゃあ、また。おやすみ』
『おやすみなさい。』
車のドアを閉めると、車はゆっくり道路の先へ走っていった。
家の中に入るとお母さんに、あら、おかえりと声をかけられた。
『なんだか、随分楽しそうね』
ふふっと笑う母を横目に、ルンルン気分で自分の部屋にあがる。
電気をつけて、ベッドにバサッと倒れ込む。
その途端、きゃーーーっ////と足をバタバタさせてクッションを抱き抱える。
どうしようっ・・・どうしようすっごい楽しかったっ・・・
クッションに顔をうずめながら、今日のことを思い出し、耳まで熱くなる。
新崎先輩・・・先輩のこと好きになっちゃった・・・っ
顔を綻ばせていると、ベッドの脇の煙草とジッポが目に写る。
ゆっくり手に取り、眺める。
これはきっと、誰か違うひとのものだ・・・きっと・・。
そう思い、捨てようかとも思ったが、
なんとなくそれも気が進まず、とりあえずそのまま元あった場所にゆっくり置いた。
携帯を開き、さっき帰り際に交換した先輩の連絡先を見る。
それを見ているだけで顔が綻ぶ。
そうだっ。澪に連絡しなきゃっ。
その前に・・・
新崎先輩へお礼のメールを送り、
そのあと、澪の番号に電話をかけた。
『もっしもーし。お帰り~!』
待ってましたと言わんばかりの澪の声に、表情を緩ませながら、
今日の出来事を夜遅くまで話した。