ここでキスして。





気付かれないように、なんとか平常心を装って日誌の続きを急いで書く。






「でも俺、初めてだったかも」


「え?」


「あんな真剣に髪触られるの」





貴重な体験だったよと面白そうに笑う榛名くん。



そうですそうです。
そんな変態なことするのはきっと私しかいません。



…って、お願いだからもうそのことは忘れてー!













「よし、できた」



日誌を閉じて一息つく。


ただの日直の仕事なのに、ある意味こんなに神経使ったの初めてだ…





「それ俺持っていくよ」





私から日誌をヒョイと取って立ち上がる。




「ありがとう」





ドアへ向かう背中に声をかけると、振り向いた榛名くんが日誌を持った手を少しだけ上にあげて




「うん。またね、美弥ちゃん」






そう言って廊下へ出ていった。











「…今……なまえ、」





美弥ちゃん、って。

言ったよね?






えええええっ!





榛名くんの姿が見えなくなるまで、私はしばらくその場から動けなかった。




そんな私を誰かが見ているなんて気が付かないくらい、動揺しちゃってたから。



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