ことり公園。
「今度、……何所か、行こうか。」


 鈴原を家まで送り届けて、少しの名残惜しさを胸に抱えつつ言うと、ずっと照れ臭そうに俯いていた彼女が、やっと俺の顔を見た。


 鈴原はパアッと目を輝かせて言った。


「水族館、……行きたいな……。」

「……わかった。また連絡する。」


 熱くなったお互いの手を解くと、鈴原はまるで捨てられた子犬のような目で俺を見た。


 俺もそんな表情をしているのかもしれないと思ったら恥ずかしくなり、俺は彼女の頭にポンと手を置いて、背中を向けた。


 すっかり暗くなった空に瞬く一番星が、いつもより何倍も輝いて見えた。


 左手の熱が、……脳裏に焼きつく彼女のはにかみ笑いが、……俺の心をすっと満たしてゆく。


 俺のなんでもない人生においてこんなにも幸せな気分になったのは、これが初めてだったかもしれない。



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