呉服屋の若旦那に恋しました
私が低い声でそう言うと、父はあほやなあと又呆れた声を出した。
「衣都が自ら志貴君離れしたんやなくて、志貴君がそう仕向けたんやで」
「え?」
「衣都が高校生になる時、志貴君は、あんまり衣都に話しかけんようにせんとなって、言っとった。衣都の楽しい高校生活を、俺が邪魔したら駄目やからって」
「………そんなこと、言ってたの……?」
仕事が忙しかっただけじゃないの……?
なんだか、胸の奥の奥が、ぎゅっと狭くなった。
そんな私に、父はそっと1つの髪飾りを渡した。
「衣都、これ、志貴君から、毎朝預かってたもんや」
「え……」
「衣都の髪飾りは、俺が毎日選ぶって、約束してたから、って」
「……っ」
―――志貴は、本当に容赦なく私の心をかき乱す。
正直もう疲れた。とっくに封印したこの気持ちを、こじ開けたくなかった。
それなのに、彼は、どうも私の心の中に侵入してくるのが上手いらしい。
私は、髪飾りを受け取って、手で顔を覆った。
“今もちょっとときめくやろ?”
……ときめくとか、そういう次元の話ではなかった。
私の中で志貴は、すでにそういう次元にいる人ではなかった。
8つ上だから、幼馴染だから、お兄ちゃんみたいなものだから、私は彼にとって、子供だから。
そこが、私が志貴を好きじゃないと言い聞かせられる、唯一の言い訳だった。なんとかその言い訳で気持ちに蓋をしてた。