呉服屋の若旦那に恋しました


「あにふんだおまへ」


何すんだお前、と睨むと、衣都はこうもらした。


「す、好きって言ってくれてない、まだ」

「三十路の男が好きだよなんて言うには相当な準備が必要なんだよ! 分かってんのか!」

「やだ、言ってくれないとキスしたくない!」

「言えるか!」

「じゃあ離れて!」

「膝の上乗っかってんのお前だろ!」

「うるさいオッサン!」

「………」


はあ、と溜息をついて頭を抱えた。

衣都は、散々ああだこうだ言いながらも、内心俺が怒ってしまったのではないかと不安になっている。表情を見てすぐに分かった。

怒ってるわけじゃない。

ただ、心の準備と言うか整理がまったくついていないから、落ち着けているだけだ。

段々不安げな表情が増していく彼女に、俺は1つ提案した。


「じゃあ、衣都からキスしたら言ってやる」

「え何その台詞の方がよっぽど寒いよ? 大丈夫?」

「うるせーよお前は一々」

「………」

「これを逃したらもう言わない」

「一生?」

「一生」

「………」


一生という言葉の直後に、ちゅ、と小さな音が部屋に響いた。

衣都は、俺の肩に両手をかけてキスをした後、すぐになぜか正座をした。

なんだかその様子がおかしくて、さっきまで苦しかった呼吸が一気に楽になって、ふきだしてしまった。



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